遥か昔の記憶・・・
でも ほんの少し引き出しを開けば
今そこで見てとれるような鮮明な記憶・・・
台風が近付いているという朝の天気予報通り
会社帰りの電車から見える景色は今にも泣き出しそうだった。
駅を降りると大粒の雨が 待っていたぞと
言わんばかりに落ちてきた。
朝の予報をぼんやり聞いていた私は お気に入りの
スーツを着ていた。
強まる雨音にせかされるように長い神社前の階段を
足早に上がり家路へと急ぐ。
カバンが濡れないように 傘を持つ右手にかけなおした
時に 後ろで何かが動いた。 「うん?・・・」
振り向くと 申し訳なさそうにこちらを見つめる
生後5ケ月ぐらいの仔犬が居た。
その後ろからは車が2台こちらに向かっている。
「危ないからこっちにおいで。。」
座って待つ私に 前進しては止まり・・の繰り返しで
手の届く所までやってきた。
「早くオウチに帰らないと。。。どこから来たの?」
答えの代わりにゆっくりと尻尾が2〜3度揺れた。。が
帰宅途中のサラリーマンが歩いてくる気配を感じると
尻尾がダラリと下がる。
この年齢の仔犬にしてはお腹がくびれすぎている。
神社に捨てられた仔犬であるとその時に分かった。
「ごめん。。ウチには犬が居るから。。気をつけるんだよ」
長く居ると辛くなる。。。そう判断し 小さな頭を少し
撫でて家路へと向かった。
20メートル程進んでから振り返ると
申し訳なさそうな顔が 10歩ほど後ろに見える。
私が足を止めると その距離を変えずに止まる・・・
幾度となく その動作は繰り返された。
雨は風をともない さらに強く主張し始めていた。
傘が強風にあおられる。
もどかしく丸めた傘を カバンに突っ込み
小走りで家路に向かう。
「ただいま。」
台所のある裏の勝手口から帰宅した私を見る
母の目は大きく見開かれた。
その目に映っていたのは ずぶ濡れの私の腕に抱かれた
申し訳なさそうな瞳で見つめる仔犬だった。
モーガンの一代前のパートナー。
「 ポ コ 」 との出会いのおはなし。。。。
16年間 ともに過ごしました。
写真は 13歳のポコです。