にゃーちゃんを拾った時、はじめはもう一匹いた兄弟猫の方が先に目についた。
でも、もう生きてなさそうだったので、ちょっとつついてみたり、鼻先に手をやったり心臓の音を聞こうと耳を付けてみたりした。
くたっとして動かないし、心臓の音も聞こえない気がした。
「あ〜、死んでるわ」
そう言った私に、一緒にいた父が「そこにもう一匹いるぞ」と指さして言った。 あと一歩私が下がったら踏んでいたところに、転がっていたのがにゃーちゃんだった。
これもダメかな?と思いつつ鼻先に手をやった時、そっと左手を乗せてきた。
キュッとホントに弱い力で握ってきた。
びっくりした。
生きてる!と思ったから反射的に拾ってきた。
正直なところ、こういう状態の子を見つけた時は、見なかったことにして置き去りにしてきた。
助けられるとは思わなかったし、きっとまた私達姉弟が、仕事や学校に行ってる間に親に捨てられてしまうのだと思うから。(当時ウチの近くには動物病院はほとんどなかった)
今でもなんでにゃーちゃんだけは連れ帰ったのかわからないし、なんでにゃーちゃんだけは私達のいない間に捨てられなかったのか分からない。
それが縁であり、にゃーちゃんの運の強さだったかもしれないけど。
最期の日、にゃーちゃんに「帰れ」と言われても帰れないでいた。
目を開けたまま、横たわって息だけしてるにゃーちゃんを、隠れて見ていた。
私に気付くと、体の向きを変えるのもやっとなのに、突然いつもの目付きになってよいしょと起きて座った。
「あ、ムリしないで!」と思って手を添えようと出した私の左手に、ポンと、あの時と同じく左手を乗せて、じーッと私の顔を見てきたにゃーちゃん。
私に看取られたくないのだとわかった。
だから帰る気になった。
にゃーちゃんは、初めて会った時のことを覚えているのだと思った。
帰り道、頭上を過ぎて行く白鳥の群れを見た。
最後に抱っこしたにゃーちゃんの軽さは何故か記憶にない。
でも、初めて触れたチビにゃーちゃんの爪の感触と、最期に握ったにゃーちゃんの左手は忘れない。